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「そりゃあ、あんた、適当じゃなきゃやってられないでしょうに」
「わかるの?」
「おうとも」
マーさんは豊満な胸をこれでもかと逸らし、鼻息を荒くする。
「あたしが会うのはあんただけじゃないし、人間のイメージの中でだけ世界と関わっているわけではないしね。獣はいろんなことを教えてくれるよ」
「へえ……」
感心して光琉は溜息を吐く。
「あんただって、その適当さに救われるさ」
「そうかあ?」
マーさんの方を見ると、彼女はゆっくりと頷いてくれた。
適当が人を救う。そう心の中で呟いて、光琉はマーさんを真っ直ぐに見た。彼女の瞳を覗き込んだマーさんはしかし、その奥底に揺蕩う淀みを見逃さなかった。
「元気そうだけど、まだまだねえ」
「わかるの?」
「あんたなんかより、よっぽどあんたのことわかるよ」
マーさんは光琉の頭をそっと撫でる。すると、不思議なことに光琉の胸の底に溜まっていたもやもやが消えていく。光琉は自分の表情が和らいでいくのを感じる。
強張っていた肩の力が抜けていき、不意にマーさんの懐に飛び込みたい衝動に駆られた。
「我慢なんかしてんじゃないよ」
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