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「はい。何だか、マーさんのいる空間が落ち着くんです」
「そう。それはよかった。君が抱えているものをよく理解してくれているみたいだし」
「マーさんと話を?」
「いや」
夢一は首を横に振って、グラスを磨き続ける。
「妖精とお客様のやり取りを盗み聞きするほど無粋ではないよ」
「ははは。そうですよね」
「君の寝起きの顔を見ればわかる。今日会った妖精とうまくいったかどうか」
「なるほど」
光琉は彼の言葉に大きく頷いた。
ここは、妖精と人間が交わる場所、「レスピラシオン」。藤谷夢一が店主を務める喫茶店だ。
商店が立ち並ぶ道から一つ路地に入った先に、この店はある。ひっそりとして人を寄せ付けない雰囲気があるが、光琉はそこを気に入っている。今日のように寝入ってしまっても、誰かに見られる心配はほとんどない。
ここを訪れる人はたいがい妖精と会うために眠ってしまうからだ。
ここに辿り着く経緯は人それぞれだ。それこそ他の誰かから紹介されてくる人もいれば、偶然立ち寄って居眠りしてしまってこの店の真相を知ってしまう人もいる。
光琉もまた偶然立ち寄った人間の一人だが、立ち寄るに至った原因は彼女の体質が大きく関係していた。
彼女は夢の中でなくても妖精が見えるということだ。
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