レスピラシオン ~妖精の家~

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 ――君はこれまで、不思議な生き物や不思議な出来事に幾度となく遭遇したはずだ。それらは全て、妖精であり、妖精の仕業だったんだよ。別に怖がることはない。姿を隠しているだけで、世界にはそこら中に妖精が歩いているんだから。さっきの猫だってそうだ。妖精はこの世界に、彼らの方法で交わっている。時に風になり、香りになり、音になり、気配になって。君は幸か不幸か、彼らの存在を強く感じることができる。あの猫が君をここへ導いたのには、きっと意味があるはずだ。さあ、そこへ掛けて。何、ここがどういう場所か、すぐにわかるから。  未だ混乱する彼女を、夢一は妖精の世界へ誘った。目覚めた先にはあの猫がいた。そして、夢一の言うことは信用してもいい、と告げるのだった。光琉の抱える闇を少しでも照らし、取り払う手助けをしてくれるはずだと。  猫と話した内容を夢一は未だ知らないが、眠っている光琉に何もしてこないところから、あの猫の言う通りなのだろう。  それ以来、ここは光琉のお気に入りの店となった。  あの猫とはあれっきりだが、代わりに彼女の夢にはマーメイドのマーさんが現れるようになった。  花に覆われた店内をぼんやりと眺めていると、目の前に一皿のケーキと淹れたてのコーヒーが差し出された。 「あ、ありがとうございます」 「いいえ。遠慮なく」  夢一は柔らかに微笑んで、首を傾げた。涼やかな目元につい、目がいってしまう。綺麗な顔立ちをした彼に会うこともまた、ここに来る目的になっていたりする。  カウンターに置かれたケーキに早速フォークを伸ばす。柔らかなスポンジに何の抵抗もなくフォークの先が沈む。生クリームが皿の上に零れ落ちるが、光琉は器用にそれをスポンジに掬い取って、口に運ぶ。     
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