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クリームの芳醇な香りとフルーツの酸味が見事にマッチしている。夢一の手作りだというのだから驚きだ。ちなみに光琉はこういう類のものは作れない。
「おいしい!」
「空腹には沁みるでしょ?」
「はい!」
この店で夢を見ると、無性にお腹が空く。それは、妖精がカロリーをもらっていくからだそうだ。人間は心の疲れを妖精に癒してもらい、その対価としてカロリーを渡す。
カロリー量はその都度違って、少しのときもあれば、起きてからしばらく動けないほどのときもあるという。
「彼はいい奴だろう?」
「彼?」
「夢に出てくる人魚の」
「マーさんって女じゃないの?」
「ああ、光琉ちゃんには女に見えるのか」
「?」
わけがわからず首を傾げる。夢一が優しく微笑んで、空いた皿を下げながら説明してくれる。
「妖精には性別なんかなくてね。見る人によって違うんだよ。それこそ、その人の望むような性別で現れる」
「望むような性別……」
光琉はそう呟きながら天井から吊るされた古びたシャンデリアを眺めた。
望むような性別、と聞いて、光琉は少しどきりとした。心当たりがあったからだ。光琉は袖に覆われた右腕を反対の手で握った。痛みを感じたが、構わなかった。それよりも痛むところがある。
幸い夢一は彼女を見ておらず、皿を洗っていた。ホッと溜息を吐いてコーヒーを飲む。
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