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「まあ、その人魚が毎度同じ性別ならば、一度自分と向き合うのもいいかもしれない。彼女が君の夢の中で女であり続ける原因に心当たりがあるなら、その必要はないけどね」
「……夢一さんって、本当に私の夢を覗いてないんですよね?」
その日の夜、光琉は夢を見た。
黒く、大きな影が覆い被さり、何やらくぐもった声で怒鳴っていた。何を言っているのかはわからない。ただ、自分はいらない子なのだ、と繰り返し心の中で呟いていた。
しばらくすると別の影が大きな影に縋りつき、光琉から引き剥がしてくれた。言いようのない恐怖がそれまで光琉に纏わりついていたが、その瞬間、恐怖は消えた。
頬を伝う涙は止まらなかったが、それでももう一つの影のおかげで危機を脱したことはわかった。
影は光琉を抱きしめて、どこかに向かって歩き出した。光琉はその柔らかな腕に抱かれながら、深い眠気に襲われた。
――ああ、夢か……。
そう気づくと、彼女は一気に夢から引き揚げられた。
「んー……」
「最近、よく見るんだよね。その夢」
「悪夢よね。それは私じゃ何ともできないわ」
マーさんは髪を撫でながら、心底残念そうに言う。
光琉は今日もレスピラシオンに来ていた。来るなりすぐに眠り、ここへ来た。あまりの速さに、夢一が声を掛ける隙すらなかった。
「その影に心当たりはあるの?」
「う……」
「あるのね」
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