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レスピラシオン ~妖精の家~
深い微睡みの海に光琉はいた。遠くさざめく波の音や、磯の匂いが彼女を包み、どこか遠くへ連れていくような、それでいて見慣れた公園のような身近な場所へ送り届けてくれるような妙な感覚が彼女をさらに深みへと引きずり込んでいく。
気づくと光琉は磯にいた。波は穏やかで、岩場に寄せては返す。その岩場の一角に女が一人佇んでいることに気づく。
恐る恐る近づくと、不意に女が振り返った。
「やあ、また会ったね」
にこやかに笑う目は真っ青で、白い部分が全くない。耳の辺りに掌のような突起が見える。驚くべきは彼女の下半身だ。
彼女の下半身は魚のそれだった。ぬらりと光る体表は鱗に覆われ、二本の脚があるべきはずが魚の腹があり、その先には尾鰭があった。
光琉は小さく手を振って、彼女に近づいた。
マーさん、と光琉は呼んでいる。マーメイドだからマーさんだ。
彼女に名前はない。だから好きに呼べばいいと、初めて会った時に言ってくれた。短絡過ぎると呆れられたが、怒られなかったのでそう呼び続けている。
「隣、いい?」
「私がそれを断るとでも?」
光琉は少しはにかんで、彼女の隣に腰を下ろした。
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