カフェ・ノスタルジア

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 夜勤明けの妙に高揚した疲労が、洋子の眉間に纏わりついている。まだ冬には遠い、穏やかに晴れた秋の朝は、能天気に光が溢れている。早朝から人通りの多い下町の路地を、駅へと向かう。かつて江戸の材木の集積地だった関係で、この辺りは大きな倉庫が多い。倉庫と倉庫の隙間に寺社と商店が点在する、およそ東京らしくない街だ。使われていない倉庫の隣に、小洒落たケーキ屋やワイン工房があったり、誰が来るのか現代美術専門のギャラリーが営業していたりする。それが一様に繁盛しているのは、不思議な気がする。洋子の職場のコンビニエンス・ストアにも、最近は若い客が増えている。 「あら、ここにも……」  昨日までは大きな空き地だった場所に、工事用の囲いが並んでいる。「店舗 木造三階建」と表示板が貼り付けてある。木造の三階建て店舗というものは、五十年生きてきた洋子の想像力では理解できない。施主の欄には「島田季里」とある。女性の名前なのかな。
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