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そんな学生生活を送った私も社会人になってしばらく経ってから、かなり年の離れた後輩ができた。顔が可愛くて背が高く語学が堪能と非の打ち所がない。その上巨乳だった。これは例の人間関係をごちゃ混ぜにしても許される最大の権利を有する勝ち組の証!気をつけなければ!私は若干警戒したが、とても気さくな子ですぐに打ち解けることができたので、ある時思い切って聞いてみた。
『巨乳が世界を変えたのを見たことあるんだけど、やっぱりそういう経験あるの?』驚いたことに非の打ち所がない彼女すら全く経験がないとの事。昼休みの他愛もないおしゃべりの中だったのでかいつまんだ形になったが、前述の通りの私の体験を話すと、彼女はなかなか面白いと言ってくれた。『そんな圧倒的勝者、一回なってみたいですね』
私はしまったと思った。人との衝突を好まずに、なるべく友だちと楽しく過ごしたいと思っていたのにもかかわらず、制御不能の若さと欲望からやむなく勝者の座に座ることになった千代ちゃんの消極的な圧勝を語ったことで、正反対な彼女の勝気なハートにある何らかの導火線に火をつけるようなことをしたのかもしれない。彼女のような言わば世界王者がハナから勝つつもりで、あの最終兵器を盾に全力試合に臨まれたら、凡人には為す術もないだろう。
ただの圧勝に情緒は感じられない。あの時私はあるべきはずの嫉妬の炎が不可解な姿に変貌し消えたこと、いや見えなくなったことに、言い知れぬ情緒を感じたのだ。
嫉妬の炎は赤くて熱いはずで、同じ炎が数カ所発生すればひと塊の海になるはずだった。あの時みんなが全力で自分の中に封じ込め、自分の体内をジリジリさせて鎮火したこと。煙を吐いて、その煙に目をやられてシパシパさせながら、涙を流した景色。
彼女に情緒がどうのこうのと説明したい気持ちもあったが、かなり年上の私が切々と語り始めては、楽しかったランチタイムを台無しにしてしまう。昔にあった出来事を伝えたら笑いが取れてキリよく終わる雰囲気になった。それでいいや。武器の持ち主はその効能を自力で知ってコントロールする技能も身につけていかなければならない。おせっかいは無用だ。
あの会社でまた惨劇が起こらないことを祈りつつ、私は契約を満了して退社した。
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