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私?私は何をしていたかって??
私は山田くん争奪戦には加わらなかった。いくらカッコ良くても、小柄であまり成績が良くないのが好きになれなかった。神は彼を創造する際、顔の造作にこだわり過ぎて時間切れになり、他の設定をいい加減にしたなとすら思っていた。
私は黒田君が好きだった。濃い眉が目ヂカラを際立たせていた。穏やかな性格で、厚い胸板が見た目に安心感を感じさせる長身のスポーツマンだ。
残念ながら黒田くんも他の大多数の男子同様、千代ちゃんのことが好きなのを、私は知っていた。隣のクラスの人気者集団にいたので、きっとライバルもいただろうが、誰もかれも圧倒的勝者千代ちゃんを前にしては雑魚扱いだった。部活の合間に、休み時間に、チャンスがあるたびに彼が千代ちゃんに話しかけては嬉しそうにしている姿を見て私は思い切り嫉妬し、その火を掌の上で握りつぶした。いろんな箇所が痛かった。
そんな私が担った高校生活最大の役目は、千代ちゃんのスキャンダルを広く世界に知らしめることだった。
千代ちゃんは山田くんと交際することになっちゃったと、困惑しながら一番最初に伝えてきたのは私だった。
『ありえないでしょう』誰もが山田くんの心を獲ようと、学年中がやっきになっている状況下、中立を宣言していたあなたがそんなことしちゃいけないでしょう。『ありえないでしょう』恋敵としてメラメラする瞬間と、友だちとして仲良くする瞬間と、ギリギリの力配分で維持してきた私に、そんな衝撃を与えるあなたの残虐性、ありえないでしょう。『ありえないでしょう』私は電話口で繰り返した。よかったじゃんなんて言えなかった。
私は一人で抱えるには重すぎる情報をぶん投げられた。たくさんの同級生が失望する。彼女は罰を受けるべきだ。仮に誰にも言わず内緒にしてあげて、新しいカップルが楽しい日々を過ごすことに手を貸すとしたら、それは大変な裏切り行為だ。私の狭い了見ではそうとしか思えなかった。友人のテニス部員に伝えて、とにかくこの抱えきれない重みを共有してもらうことにした。当時テニス部には明るくおしゃべりな女の子が集まっていた。スコートを蝶の羽のようにヒラヒラとひるがえし、あらゆる情報を伝播して回る悪魔の蝶が、みるみるうちに学年を震撼させると、私は確信をもっていた。私は悪魔の蜜を蝶に託した。
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