渡り風の犬、ジロー

10/25

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ
 びゃうびゃう! びゃうびゃう!  下で、野犬たちの吠える声がする。ぼくの上った大樹を包囲するようにあたりを回りながら、ぼくを執拗に吠えまわす。その数は、いち、に、さん……八頭ほどであった。  びゃうびゃう! びゃうびゃう!(『腰抜けめ! 降りてこい!』)  野犬たちは吠え続けている。確かに、彼らの牙はぼくに届かないけれど、けれどぼくとしてもここから動くことはできない。ぼくは威嚇をしながら、根競べをする覚悟であった。  そのときだ。  ガウッ。  月の光を切り裂くように、銀色の光が一声とともにひらめくと、次々にぼくを包囲する犬たちを食い散らした。その銀色の光に続くように、次々と茂みから飛び立だした犬たちは、ぼくを包囲していた犬たちを吠えたてていく。樹上に気を取られていた犬たちは、敵の接近に気づけず、新手の出現に総崩れとなった。ほうほうの体で逃げ出していった野犬たちの群れを見届けて、ぼくは地上にぴょんと飛び降りる。そこでは、まるでオオカミみたいな銀色の毛の大きな犬が、金色の瞳でぼくを見ていた。  ずい、と、割って入るようにブルドッグが言った。 『おう坊主、見ねえ顔だが、お前、まさかデンデン組の密偵じゃないだろうな? 犬のくせに木に登るなんて怪しいやつ――』 『丸、やめろ』  遮るように、銀のオオカミは言った。 『この若者は恩人だ。娘をかばって、あいつらを足止めしてくれたのよ――』
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加