渡り風の犬、ジロー

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 がさ、と音がして、藪から銀色の、小柄なメスの犬が現れた。その前足に虎ばさみがかかっており、銀の体毛には血がにじんでいた。 『父さん』 『お嬢、こいつはいけねえ。いますぐ俺っちが罠を外して――』 『力任せじゃ傷が広がってしまうよ。貸して』  めいいっぱい虎ばさみの横の棒を踏み込むと、がちゃん、と音立てて虎ばさみは外れた。これもミイヤさんに仕込まれた罠の外し方だったけれど、歯がついていない虎ばさみで本当に良かったと思う。もし歯のついた虎ばさみが錆でもしていたなら、破傷風になってしまうかもしれないからだ。 『こいつはすげえや。まるでライさんみてぇな魔法だ』  ブルドックの丸さんは、そう言ってしげしげと開いた虎ばさみを眺めている。ライと呼ばれた銀のオオカミはフン、と鼻を鳴らすと、ぼくをまっすぐに見ていった。 『すまないな。若者よ。わしの名はラインハルト。この山を抜けるにはまだかかる。わしらの群れは、ある程度貯えもある。しばらく、休んでいくといい』  そうして、ぼくはラインハルトという老犬の群れに、しばらく厄介になることになった。
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