渡り風の犬、ジロー

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『わからない。そのころのぼくはまだ小さかったんだ』  それが、正直なところのぼくの気持ちだった。ぼくは、祐一くんのことを恨んでいるだろうか。お父さんやお母さんのことを恨んでいるだろうか。ひげを引っ張ったり伸ばしたり、鼻をうずめて考えてみても、やっぱりその答えは出なかった。その問いが正しいものであるのかさえ、わからなかった。 『この群れは、妻と作った群れだ。賢いメスだった。病で亡くなってしまったが、わしらはきっと幸せだった。ハルは、妻によく似ている。わしは、この群れを守りたいのだ。妻の生きた証である、この群れを』  そう言って、ラインハルトさんはまっすぐに月を見上げていた。ラインハルトさんは、賢い犬だ。そして、ぼくとは違う、守るべきものを持った犬だった。  その日は、朝から天気が悪く、いつの間にか大雨になっていた。山の天気は変わりやすい。しばらくすると、大きな地鳴りがして、ぼくらの住処のすぐ裏手の山が崩れた。群れの面々はその大きな音におびえ切ってしまって、水場であった川と背後の土砂崩れに挟まれた群れは恐慌状態に陥ってしまった。  ラインハルトさんたちが狩りの遠征に出て、群れに不在だったことも災いした。犬たちはきゅーんきゅーんと不安げに鳴き、ひたすらにこの雨がおさまるのを待った。  しかし、運悪く、いやタイミング悪くデンたちの襲撃があったのである。デンたちは、川を渡ってぼくたちのベースに討ち入ってきた。  恐慌状態であった群れは総崩れになった。デンの群れは十頭ほど、戦える犬たちがほぼ総出だ。ぼくは客人扱いだったし、逃げてもよかったのかもしれない。ミイヤさんの猫術も、巨大な相手を正面から迎え撃つのには不向きである。けれどぼくはなんとか戦える状態を保っていた数匹と応戦に出た。勝機はある。そう言い聞かせての戦だった。
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