渡り風の犬、ジロー

14/25

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ
 激しい雨は匂いを洗い流し、視界を奪う。それでもぼくたちは戦線を川岸まで押し上げた。必ずラインハルトさんたちが助けに来てくれる。濡れ鼠になりながら、ぼくたちは戦い続けていたけれど、やはり多勢に無勢、ぼくたちは押し込まれつつあった。そのときであった。 『ジローさん、私も戦います!』  そのとき、傷ついた仲間をかばうように、ハルさんが戦線に躍り出た。女子供は後ろに控えるように言っていたのに、仲間を救うため彼女は飛び出してきたのだった。しかし、それは逆効果だった。 『ラインハルトの娘だ! あいつを狙え!』  デンたちはいっせいに、ハルさんに向けて襲い掛かった。虚をつかれたハルさんは微動だにできず、デンたちの牙が彼女へと迫った。そのとき、じりじりとした地鳴りがした。ぼくは。 『ジローさん……?』 『みんな、今だ! 土砂崩れに向かって、全力で走れ!』  ハルさんを突き飛ばし、デンたちの牙に食らいつかれながら、ぼくはあらん限りの声で叫んだ。その直後、激しい鉄砲水があたりを包み、ぼくとデンの群れを飲み込んでいった。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加