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ぼくは何のために旅をしてきたのか。その明確な答えは闇に沈んでいる。ねぇ、それなら、きっと帰ることだってできるはずだ。ミイヤさんのもとへ。徳さんのもとへ。ラインハルトさんの、ハルさんのもとへ。足取り重く彼らのもとへ帰っても、きっとみんなは受け入れてくれるだろう。
ああ。でも。
『旦那の帰る家を探しやすよ』
徳さんは、胸を張ってそう言った。
『君の行く手に、幸せがあふれますように』
ラインハルトさんはそうぼくの背中を押した。
『生き物は、夢を見るのよ』
ミイヤさんの、金の虹彩が見つめている。
ああ。そうだね。
ぼくは、ひとひらの風に吹き散らされた、まだ咲き始めたばかりの花びらの一片が通り過ぎるのを、そっと鼻先で撫でたのだ。
ねぇ、きっと、やっとここまで来たけれど。ぼくの旅は、きっと始まったばかりなのだ。何のためかもわからない。こんなふうに、いやこれ以上につらいこともあるだろう。でもたとえばもしどこにいても、ぼくの旅が続くのだとしたら、それならいっそのことどこまでもどこまでも遠くへ、そしてようやっと行き着いた先に、きっと分かりうるものがあるんじゃないか。
それなら、この世界のすべてを見に行こう。
ぼくの名前は、渡り風のジロー。
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