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『ジロー、あなた、捨てられたのよ。そんなこともわからないの?』
猫のミイヤさんは、しょうがなさそうにため息をついた。不機嫌そうにひげをごしごしと撫でて、そうして尻尾がぱしぱしと動いて、あからさまに虫の居所が悪いようだ。
色とりどりの紅葉のじゅうたんが敷き詰められた、秋も深まるころだった。
ミイヤさんは長毛種の三毛猫で、目つきが鋭く尻尾が長い。まるで女ギャングみたいな猫である。
『そんなこと、あるわけないじゃないか。祐一くんがそんなこと』
そんな恐ろしいミイヤさんに、ぼくは意見を申し上げた。祐一くんがぼくを捨てるなんて、そんなことはあり得ないからである。祐一くんはまだ小さかったぼくを拾ってくれた恩人で、そして飼い主でもあった。ぼくが拾われてから、半年になる。祐一くんは小学一年生だけれど、でもぼくを捨てるような人じゃない。首筋に三つの黒子がある、優しいひとだ。
ぼくを拾ってくれたとき、祐一君は言った。
『ぼくの名前は、祐一。だから、君の名前はジロー。ぼくと君は、仲良しの兄弟さ』
そんな祐一君がぼくを捨てるはずなんてなかった。
『あなたのかわいい飼い主がそうだとしても、その親はわからないのよ。人間なんて、簡単な都合で動物を捨てる。あたしだってそうだったもの。あなたここに来るとき、かわいい飼い主が一緒だった? その子の両親だけだったんでしょう? もしそうなら今頃あなたはいなくなったってことにされて、素直なあなたの飼い主が泣くのを両親が慰めているところでしょうね』
ぼくはびくりと尾を震わせた。そういえば、普段と違って夜中、ぼくは祐一くんのお父さんに連れ出された。病院に行くのかなと思って気が進まなかったけれど、知らないすごく長い道のりを車に揺られて、ぼくはついうとうとと寝入ってしまった。気づいたときにはぼくは専用のキャリーバッグごとこの近くの、大きな紅葉の木の下に置かれていて、そのときにはもうお父さんの姿は見当たらなかった。
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