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不安になって何度か吠えてみたけれど、誰も答えてくれない。夜が明けていく中、はらはらと視界の先を振り落ちる紅葉がかすめて、ぼくは思わず手を伸ばしてみた。すると、いつもは自分では開けることができなかったはずの、キャリーバッグの扉が、きい、と音を立てて開いたのだ。
ぼくは真っ赤な朝焼けの紅葉の森を走り抜け、そして疲れ果てて一本の木の下にへたり込んだ。ぐう、とおなかがなっていた。そこで、ミイヤさんと出会ったのだった。
『あなた、やっぱり捨てられたのね。かわいそうに』
ミイヤさんは、ため息をつくようにして言った。確かにあのとき、お父さんだけで祐一くんはいなかった。そして、うとうととして定まらない曖昧な記憶の中で、お父さんはたしかに『ごめんよ』とつぶやいた気がした。
もしかすると、ぼくは本当に捨てられたのかもしれない。思えば、ここがどこかさえ判別がつかず、いつもの散歩道とは似ても似つかない野山である。風のにおいも、土のにおいも知らない場所だ。そう気づいたとき、ぼくは突然怖くなった。ぶるぶると体はひとりでに疼きだし、いつの間にか大きな震えになっていた。この森の中で、ぼくは一匹ぼっちであるように思えた。
『あなた、まだ子供なのね』
ミイヤさんは、再びため息をついた。そして、ぷい、とぼくに背を向けた。
『ついてきて。あなたに生きるすべを教えてあげる。猫のだから、犬のあなたには不向きかもしれないけれど』
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