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そうしてぼくは、いくつかの山を越えて、潮のにおいに誘われるように海沿いの街にたどり着いた。この街はどうやら、寂れた港町のようだった。ぼくの記憶の中にある、祐一くんがいる街に海はなかったけれど、おそらくはぼくの帰巣本能というものが、この街を通って東へ向かうように告げている。
海沿いの街は、ちょうどツバメたちがわたってくる季節である。
『薄汚れた犬がおりますぜ! 宿なしの野良犬でさぁ! あっしらはきちんと巣を作るのに!』
チィチュロリ、チュリチュリ、ツバメたちはぼくの上をからかうように旋回した。確かに、しばらく走り続けたぼくの毛並みはぼさぼさで、お世辞にも綺麗とは言えなかった。
ツバメたちは、ぼくの上をくるくると旋回しながら、ぽとぽととフンを落とした。
『きみたち、いじわるはよしてくれよ』
ぼくがすんでのところでそれをよけると、笑いながらどこかへ飛び去ってしまった。
ぼくが民家のごみ箱から食べかけのパンを拝借し、胃袋を満たしていると、再び、頭上をたくさんのツバメが飛び過ぎていく。彼らはいったいどこへ行くのだろう、と不思議に思って街をついていってみると、ツピー、ツピーという鳴き声を聞いた。ぼくがそちらの方に駆けつけると、舟屋のひさし、巣のすぐわきにとまった一羽の親鳥が甲高く声をあげており、地面には、ジジジ、と声をあげながら、慌てふためく雛鳥がいた。巣から雛が落ちてしまったのだ。
ぼくの接近に気づくと、親鳥はさらに甲高い声を出し、ぼくの周りを飛び回り始めた。しかしながら確かにこのまま雛を放置していては、野良猫に食べられてしまうかもしれないという懸念もあった。
ぼくはひさしの高さと、近くの塀の高さを目算し、雛を咥えて距離を取った。助走をつけ、手飛び上がり、さらに壁を蹴って跳躍する。そして首を伸ばし、咥えていた雛を巣の中に戻した。
これできっともう大丈夫だ。ぼくはくるりと空中一回転し、地面に着地した。
ミイヤさんには甘いと言われるだろう。獲物を食べないなんてどうかしていると。でもぼくの胃袋はさっき食べた食べかけのパンでおなかいっぱいだったのだ。食事も済んだし、旅を急ごう。ぼくが舟屋をあとにしようとしたときだった。
『チィチュロリ、チュリチュリ、待っておくんなせい、山犬の旦那』
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