渡り風の犬、ジロー

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 ぼくの周りをくるくると旋回しながら、のどの赤いツバメが囀った。ぼくが立ち止まり見上げると、ツバメはぴょんとぼくの鼻先に降り立った。 『旦那、おみそれしやした。あの身のこなしはまるで猫――いいや、猿飛佐助そのものでござんした。あっしは渡りツバメの徳之助と申しやす。徳と呼んでくだせえ』 『ぼくはジロー。帰る家を探して旅をしているんだ』  それから、ぼくたちはしばらくの間言葉を交わした。からかってしまったことへの謝罪や、ぼくはおそらく捨てられて、けれど帰る家を探して旅をしていること。今までの経緯を話し合っていると、突然徳さんが泣きだした。 『なんてこった。恩人の笑顔のために何としてでも家に帰ろうだなんて、泣ける話じゃあねえか旦那。そんな義理犬情に厚い犬をからかったなんて、あっしは自分が恥ずかしい』 『気にしないでよ。山中では、それこそ鳥を狩ったりして生き延びてきたのだから』 『いいや、ジローの旦那、あっしは決めました。あっしらは、全国津々浦々を渡りやす。だからね、その先々で、ジローの旦那の帰る家を探しやす。なあに、こう見えてもあっしら、飛ぶのには自信がありやすから』 『そんな。悪いよ』  徳さんは、ぴょんと飛び上がると、ひさしの下の巣にとまって言った。徳さんの声は震えていた。 『この雛は、あっしのせがれなんです。初めてできた子なんです。この子が無事で、本当によかった。旦那、本当にありがとうございやした』
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