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「未波ちゃん、おはよう」
ここに出向になって数日もした頃から、出勤した未波を
小走りに駆け寄ってくる絹矢が迎えるようになった。
そして、もちろんこの日も、満面の笑みの彼に迎えられる。
「おはよう、智樹くん」
それから、荷物とジャケットを置きにロッカーに向かう未波に、
絹矢は、大きな子犬がジャレつくように付いてくる。
「未波ちゃん、今日もすごく可愛いね」
ありがとう。
既に挨拶のように言われ続ける言葉に、未波も、挨拶のように同じ事を返す。
しかし、次の言葉を交わした途端、にわかに部屋の空気が変わった。
「俺、未波ちゃんのこと大好き」
「私も、智樹くん好きよ」
智樹。
低く辻上の声が絹矢に掛かると、
未波にも、にわかに固まった部屋の空気が分かった。
しかし、それを感じ取っていないらしい絹矢だけが、
キョトンと、部屋の隅で新聞を読んでいた辻上に目を向ける。
そんな彼の腕を、おもむろに歩み寄ってきた辻上が取り、
「ちょっと来い」と、やや引っ張るようにして部屋を出ていく。
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