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そんな彼らの背中を、未波は、漠とした不安と共に少し呆然と見つめた。
どうしたんだろう……?
たった今、絹矢に声を掛けた辻上の声は、明らかな硬さを持っていた。
そして、絹矢を連れだす彼は、不穏な空気を纏ってもいた。
だがやはり未波は、なぜ急に彼が、不機嫌オーラを出したのかが分からない。
しかし、そうして呆然とする未波に、そっと課長の矢代が歩み寄ってきた。
「米倉さん、ちょっといいですか?」
そして、出勤してきた勝俣の耳を避けるように、
ロッカーと反対の隅へと呼ばれる。
「米倉さんに他意がないことは、十分わかっています。
でもね、智樹くんは、好意の『好き』と
良い人という意味の『好き』の区別が、はっきりつかないんです」
しかし未波は、すぐに矢代の言葉の意味を理解できなかった。
すると、それを察したらしい矢代が更に言う。
「智樹くんはね、若くて可愛い米倉さんがここに来てくれて、
すごく嬉しいんですよ。
それでね、たぶん初恋をしているんだと思います」
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