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えっ……。
てっきり嫌味の一つも言われるだろうと覚悟をしていただけに、
未波は、ちょっと驚いた。
だからつい、抱えた不安が口から零れ出る。
「あの、智樹くん、納得は……?」
尋ねた未波の横で、辻上の手がわずかに止まった。
そして、少しだけ背後へ視線を向けた彼の顎が、
クイッと小さくしゃくられる。
「あの通り。俺の言葉より、好きな女の言葉のほうに耳が傾いてる」
はあ……。
未波は、思わず困惑の溜息を細く零した。
ところが、その時。
背後から、絹矢の大きな声が飛んできた。
「未波ちゃんと、内緒話なんかするなっ!」
「違うの。これは……」
しかし、未波が言い訳を声にしかけた時、
社内便よりも先に出社した松本が、驚き顔で部屋に現れた。
「まぁ、智樹くん。どうしたの? 随分と、ご機嫌斜めね」
そして、そんなタイミングを計ったように、
社内便の荷物を積んだ宅配業者が、台車と共に入ってきた。
「おはようございますぅ」
「あぁ、どうも。ご苦労様です」
それからは、いつもの午前の慌ただしさに忙殺され、
朝のゴタゴタを引き摺る余裕さえなくなる。
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