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4 一難去って、また一難
この週の金曜日、メール室に絹矢の姿はなかった。
それというのも、せっかくの辻上の気持ちを、
帰宅後に、絹矢の母が、あっさりと無にしてしてしまった事に端を発したらしい。
「未波ちゃん」
木曜日の朝、出勤してきた未波に、いつも通り駆け寄ってきた絹矢の顔は
ひどく切羽詰っていた。
そして続いて言われた事に、思わず未波の胸も締め付けられる。
「ねぇ、未波ちゃんは俺を好きって言ったよね?」
「智樹くん。言ったのは確かだけど、でもあれは……」
しかし絹矢は、未波の言葉を遮るように大きく安堵の吐息を零した。
「良かった。やっぱり、そうじゃん。俺、間違ってないんだ」
その上、再び未波が言葉を挟もうとする前に、絹矢が憤慨を訴えてきた。
「ひどいんだ。お母さん、未波ちゃんの『好き』は、
俺がバナナを好きっていうのと同じだって言うんだ。
でも俺、バナナは好きだけど、バナナにチュウなんかしたくない」
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