第9章 あなたの体温

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視覚もおかしくなっちゃってるみたい。そう思って瞬きしたら、目尻から熱いものが溢れて頬を伝うのがわかった。 そうか。わたし、泣いてるんだ。 「眞名実…、眞名ちゃん。ごめん」 動揺した声がおろおろと近づいてくる。でも朧げな影みたいなものにしか感じ取れない。後からあとから涙が勝手に溢れてきて視界は茫漠と潤んでる。わらわらといくつかの影がわたしに身を寄せ、器具を慌ただしく抜いて手首や脚の縛めを解く。それらの手がどうしてか冷たく震えているのがわかった。 猿轡が取り去られ、身体を抱き起こされた。誰かの手がわたしの脚を揃えるように閉じた。指で涙を拭われて、ようやく目の前のものが把握できるようになった。動揺が露わになった三つの顔が心配げにわたしを覗き込んでた。 「ほんと、ごめん。まさか、その。…泣かせるつもりじゃ。でも、なんか興奮し過ぎて。頭に血が上っちゃって」 「眞名実ちゃんが何でも受け入れてくれると思ったらすごい浮かれて、調子乗り過ぎた。でも、何されても平気な女の子なんているわけないよな。…俺たちがどうかしてたよ」 真剣な表情で口々に言い訳する。そんなこと。…謝るくらいなら。最初からしなきゃいいのに。     
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