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「大体、樫本くんに勝ち目がないのなんて分かりきってたでしょう。
篠村センパイは仕事第一の人ですもん、仕事で弱ってるとこを慰めながら押し倒すチャンスなんていくらでもあったのに。
結局、そこまでしないのって篠村センパイの後輩ポジションにいる自分の方が可愛いかったからじゃないですか。
ヘタレの自業自得って言うんです、そういうの」
あー、疲れた身体に煙草が染みる。
「ナルミちゃん、前から薄々は感じていたけど、お前、結構悪だよね?」
「それが何か?」
眉を顰める上原さんに向かって、私はにっこりと微笑んでみせる。
あと一年もしたら樫くんだってサブじゃなく自分がメインで現場を回していく立場になって、恋愛する暇どころか出逢いの機会だってなくなっていくのに。
「そんなんしてて三十路になって、あっという間に四十路になって。
上原さんみたいに結婚出来たはいいけど、また仕事が恋人に逆戻り……とか、
寂しい中年になる姿は見てて可哀想だなぁって」
「ナルミちゃん、俺にケンカ売ってんの?
この間だって俺のとっておきのブレンド豆を篠村使ってみんなで勝手に……」
煙草を灰皿に押しつける綺麗な指先をそっと盗み見る。
上原さんも客観的に見たら年の割にはカッコイイ部類に入るのに、
うちの会社の人間っていうフィルターのせいでどうにも疲れてるオジサン感が否めない。
ルックスと仕事ぶりだけ見たら、よその会社の妙齢女子からは喉から手が出るほどの好物件のはずなのに。
何というか、異性を感じさせないって言うの?親戚のオジサン的な安心感?
「あの豆、駅前のコーヒーショップの限定品。
いつもサーブしてくれるお姉さんにお釣りと一緒に手を握られて、浮かれて予約しちゃったいわく付きじゃないですか」
「何故、それを!!」
図星かよ!と心の中で盛大に突っ込みつつ、私は煙を吐き出した。
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