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「しつこくしつこく、それこそ印刷したら数十枚になりそうなメールが毎日送られてきたので」
待ち伏せされて捕まえられて、そのまま自宅へ引きずり込まれて、なし崩しに……なんて、いくら上原さんでも正直には言えない。
「あんまり腹立たしいので、相手の関係各所へメールを一斉転送したらピタリと嫌がらせが止みました」
「……」
「だってそうじゃないですか!自分に酔いしれている相手ほどタチが悪いものはないでしょう?
ドラマじゃないんだから、悲劇の何やらみたいに全て自分のご都合主義で他人に迷惑かけるなんて、大人の男として言語道断ですよ」
にしても、元カレの恩師であるゼミの教授にまで送りつけたのはちょっとまずかったか。
その後どうなったかは風の噂でしか聞いてないけど、私はよっぽど自意識過剰の嫌な女って周りに吹聴されてたみたいだし。
もう、別れられればどうでもいいやって。本当に泥仕合のようなみっともない最期に、今思い出しただけでも自己嫌悪に陥りそうだ。
「転勤先が九州になったと噂で聞いたので、相手も心機一転、なかったことにするにはちょうど良かったんじゃないですか?
まぁ、私にはどうでもいいことですけど」
「ナルミちゃんさ」
黙って聞いていた上原さんが口を押さえて横を向く。
あ、顎のラインが綺麗だなぁ、なんて、こんな状況なのにぼんやり眺めていると、
「お前、最高だな!」
「ぎゃっ!」
ブハッと吹き出した上原さんが、突然、私の頭をグシャグシャに撫で回した。
「ちょ、何するんですかっ!!」
「何その、目には目を以上のやり返し方、最高だろ」
人気のない喫煙室フロアに上原さんの笑い声が響き渡る。
「もう、馬鹿にしないで下さいよ!こっちは必死だったんですからね!自分の仕事を失うくらいなら、相手を地獄に落とすくらい何てことないでしょ!」
……良かった、いつもの上原さんだ。
さっきまでの表情はちょっと反則、実は今もドキドキと鼓動がうるさかったりする。
「あー、もうこんなに時間ロスするなんて上原さんのせいですよ!」
「はいはい」
涙を拭いながら並んで歩き出す上原さんを伺い見るも、
ダメだ、何これ。
恥ずかしくてまともに見られない。
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