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「あっ、上原さん!どこ行ってたんですか!!」
オフィスに戻るなり勢い良く声をかけてきたのは樫くんだ。
「酷いですよ、俺だって忙しいんですからね!!」
「悪い悪い」
そんな二人のやり取りを目にしながら自分のデスクに着こうとすると、そこにはあるはずのないモノがちょこんと置かれていた。
何だ、これ。
「それね~、樫くんが駅前まで買いに行ってくれたんだよ。上原さんのおごりだって」
「えっ?」
振り返るとそこにはカップを抱えた篠村センパイが立っていて、ニコニコ笑いながら私の耳元へと顔を寄せてきた。
「これで週末までフル残業やれだなんて、全然割に合わないよね?」
「おい、篠村、聞こえてるぞ」
「あー、俺、焼き肉食べたいなぁ」
「樫本、仕事しろ」
あはは、と笑い合う3人の声がぼんやりと遠くなっていく。
カップの蓋をそっと開けると、甘いキャラメルの香りがふわりと鼻を掠めた。
ホイップ、これ多すぎじゃない?
上原さんてば、樫くんになんてオーダーしたんだろ。
思わず笑いながら視線を上げると、上原さんの満足そうな顔が目に飛び込んできた。
ドキドキと忘れていた鼓動がまた暴れ出す。
あー、どうしよう。
その視線を振り切るようにコーヒーを一口飲むと、キャラメルの甘さになぜか鼻の奥がツンとした。
『素敵な上司に恵まれて幸せです』
立ち上げたパソコンからメッセンジャーへそう打ち込むと、
離れたデスクで上原さんがピースサインの手を高く掲げた。
ヤバイ、私。
完全に落ちた。
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