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「……樫くん、コレ」
「わぁ、嬉しい!ありがとう!!」
オイオイ、樫くん。
それ、日本初上陸ってテレビでも話題のブランドじゃないか。
ド本命チョコを貰いながら、返事が軽い、軽すぎる。
喫煙室からオフィスに戻るまで、二人の女の子が目をキラキラさせて樫くんを待ち構えていた。
「モテるね、樫くん」
「ハハッ、チョコって何個貰っても嬉しいよね~」
相手の気持ちを知ってか知らずか、ヘラヘラとチョコを抱える樫くんの横顔を見つめる。
まぁ、断られるにしてもこんな風に笑顔で喜んでもらえれば、相手も嫌な想いをしなくて済むってことか。
世のオフィスでは女子による義理チョコ廃止論が声高に叫ばれているけれど、
私はバレンタインって幸せな気持ちになれて好きだけどな。
チョコレート、大好きだし。
義理チョコとはいえ、みんなで一緒に和気あいあいとチョコを囲むのって楽しいと思うんだけど。
「優しいね、樫くんは」
「え、何が?」
「なんでもない。あー、しょうがない、篠村センパイのために頑張るか~」
大きく背伸びをしながらフロアに足を踏み入れ、各自行き先を表示したボードに視線を向ける。
【上原】
[社長同行→ヤマムタ勉強会]
よりによって今日、
しかもヤマムタさん。
社長も一緒なんて、そのまま酒席になだれ込んで会社になんて戻ってくるはずないじゃん。
大きく溜め息を吐きながら携帯を取り出すと、
「うわ」
点灯しているランプと着信メッセージの多さに思わず声が漏れた。
こんなことしてる場合じゃない、とっとと終わらせて帰らなきゃ。
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