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「いい加減にしてほしいのよ」
ざわついたオフィスフロアの隅で、今日もまた姫が静かなイヤミを彼女にぶつけている。
あーあ、またやってる。
分厚いファイルをいくつも積み上げたデスクの隙間から、私はこっそりと様子を伺った。
姫、とは我がSPECSデザインルーム、インテリア設計部のお局様である南女史。
デザインを学ぶために海外留学していた経歴もセンスも華やかで、周りから一目置かれる素敵なお姉さまだけれど。
いかんせん、面倒くさい。
あれが大学出たてのフレッシュな可愛い子ちゃんだったら、パソコン操作の一つや二つ、「や~ん、出来な~い」なんて言っても許されるけど。
もういい年なんだから、若い男を捕まえてキャピキャピするのは止めてくれよ。
そして姫のお気に入り、我が同期の樫本紅平も要領よく、ソツなく姫をあしらってるつもりかもしれないけれど。
甘いよ、樫くん。
詰めが甘すぎる。
「ちょっと、聞いてるの?」
おっと、姫ってば全く反応を見せない篠村センパイに苛つき始めた様子。
今日は木曜、時刻は18時半。
週末に仕事したくない組が作業に集中してることを熟知した声のボリュームと、周りに気づかれないよう笑顔で相手を攻撃する姫は、相当面倒くさい性格してると思う。
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