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「うーわー……」
誰もいないエントランスに私の声が響く。
『引っ越す前にきちんと話したいから、会社の前で待ってる』
そんなメッセージを受信したのは定時の少し前。
謝りたいから、なんてのは絶対に嘘じゃん。
傷つけられた自尊心のためだけ、私の謝罪が欲しいだけのクセに。
じゃなきゃ、10分おきに『まだ?』なんてメッセージを送りつけてくる?
大体、正面玄関じゃなく夜間出入口で待ってる辺り、相手の負のオーラをひしひしと感じるんですけど。
「………」
その場にズルズルとしゃがみ込み、ピカピカに磨かれたフロアタイルへとそっと触れる。
さすが会社の顔、お高い材質を贅沢に使ってるな。
予算気にしないでいいから自社ビル設計していい、なんて言われたら一週間寝ないでも仕事出来るのに。
………。
「ダメだ、今日は無理!!」
ガバッと立ち上がりエレベーターに向かって引き返す。
もういいや、相手が引っ越すまで会社に泊まればいいんだよ。
もう、疲れ果てて対峙するだけの体力が残ってないもん。こうなったらとことん逃げ切ってやれ。
開いたエレベーターに慌てて飛び乗ろうとした瞬間、
「……ってぇ!!」
「うわっ!!」
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