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「あのさー」
神妙な面持ちで書類を睨み付けている上原さんのデスクへコーヒーを置き、手元の紙面が見えるようぐるりとその背後へと回り込む。
「ナルミちゃん、どうしてここで花柄?ダサすぎ。いくら予算厳しくて全フロアのクロス統一で単価抑えるにしたって、ここで花柄持ち出すなんてバカじゃないの?」
心底呆れた様子で書類をデスクに投げ捨てた上原さんに、心の中で盛大に舌打ちをする。
誰だ、オフィスラブで仕事が捗るなんて、自分最強だなんて言ったヤツは。
恋心を抱いてたって日々の業務に変わり映えはないし、睡眠削って荒んだ状態で、相手の一挙一動にドキドキするなんて私には絶対に無理な話だ。
「あのですね」
私は眉間をグッと指で摘まみ、大きく深呼吸をする。
「どんな裏があるのか分かんないですけど、地元の小さな内装業者を引っ張り出してきて、工賃なんてほとんどゼロに近い、
材料費だってこの値段でどうやって仕入れるのって破格値の見積り出してきて?
設計監理さえしてくれれば細かいところはこっちで勝手にやるから申請諸々だけはよろしくね、なんて、ナメられてるとしか言いようがありませんよね?」
まくし立てるようにそう告げる私に対し、上原さんは分かってるよ、とでも言いたげに一瞥して再び書類に手を伸ばす。
「だから、どうして花柄?しかもこんな毒々しい柄を選ぶなんて正気の沙汰とは思えないんだけど」
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