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指先で弄んでいたペンでコツコツと指し示した先には、ライトブルーの背景色にブラウンのダマスク柄、一見するとヨーロピアンな花柄のクロス見本が貼り付けられている。
先輩デザイナーたちがそれぞれ大型物件に掛かりきりで極端に人手が足りない中、
顧客の要望を拾い上げる初期段階の打合せ要員として私が駆り出された。
……のだけど。
「先方が、私みたいなデザイナーもどきのセンスじゃ納得いかないって。
材質の違い、光の反射で変わる全体の視覚イメージまで計算し尽くして選び抜いたホワイト系のサンプル集だったのに、
どれも同じにしか見えないんだけど、って一蹴されました」
そりゃ、私じゃなく上原さんみたいに大人の貫禄溢れる男性が担当者だったら、相手の担当女性なんて一発でOK出すのだろうけど。
設計図やイメージパースなんかより私の印象がよほど悪かったのか、二度目の打合せで、
「アナタは黙って言うこと聞いてくれればいいから」
と言い放たれた時点で、これは私にはどうにもならないって自覚してた。
「ナルミちゃん、もうちょっと上手くやってくれよ。女同士の意地の張り合いとか、そんな低いプライドでこんな毒々しい趣味悪い建物にされたら困るんだよ。
しかも何?デザイナーズギルドでなくギルド調とか。ここまでこだわるならとことんコンセプト詰めればまだしも、似せて作るなんて言語道断。
何もかもが中途半端で見ていて恥ずかしい。とにかくダサい」
クロス見本に大きくバツを書き込んだ上原さんに、私の眉間には大きくシワが寄る。
ちくしょう、だから私が選んだワケじゃないのに。
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