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「ああいうタイプには正面きって対峙したらダメなんだよ、無理だと思ったら上司でも何でも使えるもんは使わなくちゃ。
ましてや自分が責任者で指示が二転三転してたら何より現場に迷惑がかかるだろ」
ごもっともです。
一緒に昼食でも、と前のめりになる相手を上原さんは飛びっきりの笑顔で断り、私と二人並んで建物内を歩いている。
私も篠村先輩みたいにいつもニコニコ出来て、どんな相手にでも好かれるタイプだったら良かったのに。
若い男性や妙齢の女性が相手だと途端に喧嘩越しになってしまうのは、私の性根の悪さを隠しきれてないからだろうか。
「まー、アレだ。年若い女が出てきたから相手も張り合っちゃったクチだろ?
俺も若い頃によくやられたよ、顔でナメられたというか」
思わず上原さんの横顔をジッと見つめる。
今も年よりは若く見えるのだから、私と同じ年頃はもっと童顔だったんじゃないだろうか。
「見てみたかったな」
「え、なに?」
「いえ、独り言です」
「あ、そうだ。左薬指に指輪をはめるってのも結構効果あったかな。若くても結婚してますってだけで、相手の見る目は確実に変わってくるから」
そう言って見せてくれた上原さんの薬指には何もなくて、あ、と一瞬だけ気まずそうな顔をした。
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