ぱるるAKBやめるってよ 柳沢隆幸

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ぱるるAKBやめるってよ 柳沢隆幸

 ぱるるがAKBをやめる。その事実が我々の組に与える損失は国がひとつ傾くものであったことは疑い得ない。我々はみな一斉に自身のスマートフォン(なかにはガラケーを所持している者、アイフォンはスマフォじゃないと紋切り型を言いたいだけな者がいたがここではわざわざ言及する必要はない)を取り出し、お気に入りのぱるるを切なる眼差しで見つめていた。それはまさに世界の終焉を目の当たりにした人々の目であった。組員の一人はデスクを力の限り叩き、彼のパソコンはもちろん、その周りを取り囲むデスクのパソコンを皆ダウンさせた。それを筆頭に事務所中がパニックになった。泣き叫ぶ者、行き場のない怒りを下っ端にぶつける者、母親からの電話に「ぱるる?」と応答する者。まさにあたりは地獄絵図だった。 「うるせえ、騒ぐんじゃねえ!」  私の右腕の島津が怒鳴ると場は鎮まった。私はいつも通り平静を装いながら、煙草を取り出すと、震えを最低限にしながら咥えた。「頭!」 「なんだ!」 「たばこ逆さですぜ」  私は自身の隠そうとした動揺を直視したことで、それを抑えることができなくなった。私はただただむせび泣いた。事務所全体が男共の汚らしい声で満ちた。     
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