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すべてを諦めたような顔で、道冬がいった。
「ぼくは、叶えた願いで母を殺したんです。父は母が死んだショックからか、ぼくたちに無関心になりました。でも、気に食わないことがあるとひどく機嫌を損ねるし、それと、問題を起こされるのも嫌みたいで……兄妹でどこかに出かけると、ときどき監視するように電話をかけてくる。なにも問題は起こしていないだろうなと」
それがさっきの電話だったのかと、夏樹は納得した。
「ぼくが被害をこうむるのは仕かたありません。暴力だろうと甘んじて受け入れる。でも、妹たちだけは絶対に巻き込めない」
絶対にという部分が、やけに強調されているような気がする。夏樹は道冬を痛ましく思いながら、問いかけた。
「さっき玲奈が、自分のせいでっていってたよな」
道冬は、手の内で丸めたトレーナーに目を落とした。その腕には、うっすらと火傷の痕が残っている。前の支部で負わされたものだ。思ったよりよくなってはいるが、その分腹部のアザが目立つ。
道冬は苦笑した。
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