師匠と弟子

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「おい、スマホ壊れるぞ」  秋時の声に、道冬は肩を怒らせながら答えた。 「ご心配なく、過去に二回これで破損してますから」 「なにやってんだよ」  本気で呆れる秋時の前で、道冬はまたトートバッグを振り上げた。 「おい、さすがにやめろよ」  止めようとして、秋時が道冬の背中を叩いた。その途端、彼はいたっと叫んで崩れ落ちる。シートの上に膝をついた道冬に、秋時はまた驚いた。さっきといい、いまといい、道冬はどうやら背中を痛めているらしい。 「このっ、馬鹿力」  膝を屈した道冬が、首から上だけで秋時を振り返った。確かに秋時の力は強いし、彼はスキンシップも多いほうだ。夏樹もたまにうざいし痛いと思うときがあるが、だからといって膝をついたことはさすがにない。 「道冬、背中どうした」  問いかけると、道冬は背をかばうように夏樹のほうを向いた。そして「なんでもありません」と答える。 「おまえのなんでもないは信用できない」  過去に、なんでもない顔をしていじめの傷を背負っていたり、なんでもない顔をして味覚障害を告白した道冬だ。彼の「なんでもない」は天気の週間予報より当てにならない。
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