師匠と弟子

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「なんでもないなら見せられるはずだろ。脱げ。隠すようなら問答無用で引っぺがすぞ」  夏樹の脅しに、道冬はしぶしぶトレーナーを脱いだ。そして露になった上半身に、夏樹は息を呑んだ。  戦闘員だからか、道冬の身体は痩せていてもちゃんと均整の取れた筋肉に覆われていた。ただ、うっすらとあばらが見えるほど細い。胸元を飾る鬼憑きの印の下、腹部が紫色に変色していた。まるで蹴られたか殴られたようなアザだ。問題の背中はというと、左の肩甲骨辺りに湿布かと思うほど大きな絆創膏が貼られていた。水を通さないタイプのものだが、泳いだせいかさすがによれてひしゃげていた。ガーゼ面には、乾いた血がこびりついている。 「昨日、父と口論になって蹴り飛ばされたら、運悪くぼくの後ろにテーブルがあって背中を強打したんです。角だったから、めり込んで皮膚が裂けてしまって」  淡々と傷の説明をする道冬に、夏樹はもう驚きを通り越して呆けた気持ちになった。隣で、秋時はぶるぶると首を振った。 「いやおかしいだろ。蹴り飛ばされるとか虐待じゃねえか」  秋時がいうと、道冬は首を振った。 「仕かたありません」
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