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「昨日、玲奈が父のマグカップを割ってしまって。機嫌を損ねた父に手を上げられそうになったのを、ぼくがかばったんです。もっともそれでなくても彼女たちの粗相はぼくのせいということになって、怒られるのはいつもぼくなんですけどね」
唇にだけ笑みを浮かべて、道冬はトレーナーを着た。
「よくいるでしょう? 子供のできが悪いのはおまえの躾が悪いせいだと、母親を責める父親って」
「――」
言葉を失う夏樹たちの前で、トレーナーに袖を通し終えた道冬は、ゆらりと立ち上がった。うつむき加減のその顔には、ほとんど表情がなかった。
「瑠奈と玲奈に不満があると、父は彼女たちを見ているぼくを叱る。もう仕かたのないことと、諦めているんですけど……」
意図せず、夏樹と秋時は「そんなのおかしい」と同時に声を上げた。
「おかしいぞ」
叫ぶように夏樹がいうと、秋時もそうだと同意した。
「絶対間違ってる。だって……」
秋時の言葉の後を、また二人同時に紡いだ。
「おまえだって子供じゃないか!」
息を呑んで、道冬はその言葉に心臓を撃ち抜かれたような顔をする。それからまた、うつむいた。
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