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そう告げると、愛利はゆるく首を振った。セミロングの髪が、動きに合わせてさらさら揺れる。いつもは愛らしい丸い瞳が、今日は悲壮なまでの覚悟の色を浮かべていた。
「支部長の知り合いのお寺に行けば、霊感を安定させることができるんだって。わたし、そこで修行する。そうしていつでも鬼が視えるようになれば、戦闘員として戦えるでしょう?」
条件はクリアだといわんばかりの言葉に、夏樹はめまいを覚えた。
愛利は本当は、こんな組織になど関わらず生きていける人間だった。ここに属していた彼女の父親が彼女に鬼のことを漏らさなければ。亡くなりさえしなければ。そして、彼女が夏樹と関わらなければ。
いまの愛利は、ほとんど夏樹のせいで鬼狩りの組織にいるようなものだ。さらに戦闘員を志すのも、夏樹の後を追ってのことだろう。
夏樹のせいだ。夏樹のせいで愛利は、自ら危険に身を投じようとしている。その愚行は、文字通りの後追いに近い。
「やめろ。おまえに戦闘員は向いてない。なれるわけないだろう」
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