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「やってみなくちゃわからないでしょう。それに、戦闘員には女性もいるじゃない。美緒さんにできて、わたしにできないわけないわ」
確かに、夏樹の友人である犬井秋時の師匠、杉野美緒は女性だ。しかし、性別の問題ではない。戦闘員を志す覚悟の問題だ。
どうにか説得しようと、夏樹は説き伏せる言葉を探す。しかし二の句を繋ぐより先に、愛利はいった。
「向いてなくてもわたし、夏樹くんの楯にくらいなれるから」
「――」
その言葉で、夏樹の中でなにかが切れた。
鬼狩りの支部が入っているビルにたどりついた犬井秋時は、四階に向かって階段を駆け上がっていた。
同じ電車に乗ってきた夏樹とは途中で別れた。秋時が駅で知り合いに会ってしまったから、それと言葉を交わしているうちに夏樹は気を遣って姿を消してしまったのである。
そのあとを追いかける形で、秋時は走ってきた。朝でなければ汗だくになるところだ。八月も半ばになり、毎日気温は三十度を超える。今日も暑くなりそうだ。
「ふう」
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