8 湖底の廃線

2/2
前へ
/74ページ
次へ
   広い湖上を夏風が吹き抜けていく。  幾つもの山が入り江になり、どこまでいっても入り組んだ湖が続いている。  船は白い航跡を残しながら峡谷のような水域に入った。左右から急峻な絶壁が次から次へと迫ってくる。  十五年前まで宮沢の深い山稜地帯だった場所である。現在は彫刻のように削られた岩肌の半分が水中に没していた。残りの半分は、空へ昇り、山頂付近には樹木が茂っている。 「ほら、あそこ。壁みたいな山があるだろ。あの下あたりにトンネルがあったんだ。栗村爺さんの家は、多分、この真下かな」  大樹が手摺をきつく握りながら外側へ身をのりだした。 「じゃあ、銀林池はあの辺りか?」  達也が蜂蜜色に反射する遠くの水面を指で示した。 「そうだ。おれらはあそこから出発したんだよ。お宝も湖の底にある。隠し場所は爺さんの家の床の下だったらしいよ。まあ、詳しい事はあとで説明するとして、きょうは水の上からの散策ってことさ」  大樹が言うと、みんな一斉に下をのぞきこんだ。  深緑色の湖底に、かつての廃線跡を探した。  見えるはずもないが、それでも懐かしい時代がすぐ真下にあるのだった。  卒業後、みんなはそれぞれの道へ別れていった。  あの夏、たった十数時間の冒険だったかもしれない。  けれどもその記憶が、彼らを呼び醒ました瞬間でもあった。  そこには高校生の顔がきらきらと光っている。                          了
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加