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山縣大樹(やまがただいき)は、いつも上から目線でクラスメートたちに接している。
高圧的な態度はみんなから嫌われそうだが、ラブストーリーコミックに登場するような長身と甘いマスクをしているし、しかも学年10位以内の優等生だから、女子生徒たちには人気があるようだ。
上から目線はご愛敬というところか。
午後三時。
授業終了のチャイムが鳴った。
教室からあふれた生徒たちで廊下があっという間にいっぱいに広がった。
山縣大樹大樹が女子生徒と手をつないで校舎から現れた。
女子生徒は館山碧(たてやまあおい)高校3年生。太腿がたっぷり見える短いスカートを穿き、ショートヘアはミルクティに染めている。いずれも校則違反だが全く気にする様子もない。
二人は親密そうにお喋りしていたが、手を放したのは大樹だった。
「おれよ、平川に用事があるんだよ。わりいけど、先にいつものとこで待ってろよ」大樹は、碧の腰部を制服の上から撫ぜた。「明日は休みだから、あとで一晩中な・・・」
「エロいこと言わないでよ。平川に聞かれたよ!」
碧はぱしんと大樹の手を叩いた。その拍子に丈の短いスカートがさらに捲れた。
平川達也は、二人がわざとそうやって見せつけていると、思った。
この二人はいつもそうなのだ。みんなの見ている前で、平気でキスをしたりする。
校内では有名だから、騒ぎ立てるほどでもないのだが、それでも間のあたりに見せつけられると、穏やかでいられるはずもなかった。
達也はちっと小さく舌打ちした。
「よお、山縣。用事ってなんだよ」
達也はわざとイラついた声をだした。山縣大樹のような派手さがない達也は、地味で目立だたない存在だった。だから山縣を疎ましく思っている。
碧は達也をいちべつして横を通りすぎた。デートをじゃまされて面白くないのか、イラついた声にむかついたのかは、彼女の表情からは読みとれなかった。
「用事ってなんだよ」
達也はくりかえした。
山縣の上から目線には辟易しているから、対等だというニュアンスをこめていた。
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