7 十五年後

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 達也はすまなそうに下を向いた。 「人、それぞれよ。あたしだってさ、あんなに仲良かった大樹と別れたんだから」  館山碧がけろりとして言った。  達也が顔を上げて、碧を見た。 「別れたなんて意外だったよ。そのうち大樹と碧は結婚すると思ってた」 「大樹は結婚したのかな。そんな噂は聞かないけどさ、どうなの?」 「いや、おれはずっとここを離れてたから知らないよ。岡村と瑠菜は地元だから知ってるんじゃないのか」  達也は岡村に視線を向けた。  昔と変わらない黒ぶち眼鏡のフレームを持ち上げながら岡村が答えた。 「同じ役所の中に彼女がいるらしいぞ。十二歳も年下だそうだ。一度だけ、いっしょにスーパーで買い物してるところを見た」 「ふーん、そうなんだ」  碧が感情のこもらない声で何度もうなずいた。  かすかに気落ちしているようにも、達也には思えた。達也は碧にたずねた。 「碧はどうなんだい?結婚は?その感じだとまだ独りだろ?」 「ふん、余計なお世話ですう!そういうあんたはどうなのさ」 「おれはまだ独身だよ」  達也はわざとらしく笑った。  二人の間に、関口瑠菜が割って入った。 「達也さん、うちの旅館で修業しない?あたしが結婚しないもんだから。母親がうるさくてさ・・・」  それを聞いた碧が、そうきたか、ときゃははと女子高生のように笑った。 「瑠菜、あんたさ、そういえば達也に惚れてたたもんね。だけど、こいつ鈍感だから、瑠菜の気持ちがわからなくてさ。サイテ―だよね」 「えー?碧さん知ってんですかあ。だったら橋渡ししてくれてもよかったのに」  瑠菜が口を尖らせた。 「あたしさ、あのときは大樹に夢中でさ、気がまわらなかったんだ、ごめん」  と、碧はまたきゃははと笑い、矛先を達也に向けた。 「で、さ。達也はどうなの?瑠菜ちゃんのことどう思ってるの」 「どうって、旅館は厳しそうそうだなあ・・・」 「あんた、旅館とつきあう気?」  碧がたたみこんだ。  彼らが世間話に高じていると、またたくまに時間が過ぎていった。 「やあ、すまんすまん。みんな集まっていたとは!」  濃いサングラスをかけた男が、かろやかな足取りで近づいてくるところだった。  山縣大樹だ。  白い半袖のカッターシャツに紺色のスラックス姿である。それがいかにも公務員らしい固い印象を与えるが、高校時代のイメージとそれほど変わっていない。
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