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「……どらまご?」
「そう。さしずめ、放蕩息子の孫版ってところかな」
「ふうん。だったら、そのどら孫に手を出したのはどこのどなたさんでしたっけね」
「……っ、おい、ひと聞きの悪いこと言うなよ」
「ひと聞きって、僕たちのほかに誰もいないんですけど」
ぎょっとして周囲を見渡す深谷を横目でちらりと見上げて、悪びれた様子もなく律が小悪魔めいた笑みを浮かべる。
「変わってないね。そういうまじめなところ」
「……どうせ俺は、生まじめで四角四面、優柔不断の堅物だよ」
「そうそう。そうやって、すぐむきになるところとかも昔と同じ」
やけになって、かつて目の前の青年に投げられた悪態の数々を並べ立てると、それを思い出したのか、律が思わずと言ったように吹き出す。そして、そのまま、手のなかの本に視線を落とすと、ふと穏やかな声音で続けた。
「──でも、そういうのも全部好きだったけど」
とっさに言葉に詰まって、傍らの律を見やると、やわらかく澄んだ眼差しがまっすぐに深谷に向けられていた。淡い瞳が日に透けて、一瞬、吸い込まれそうに深い不思議な色を湛えて揺れる。
思えば、初めて会ったときから、自分はこの瞳に強く惹かれていたのだと、いまさらながらに気付かされる。
それがやがて、深谷のなかで、律自身への想いに変わっていくのに、そう大して時間は掛からなかった。
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