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目が覚めるとそこは屋外階段の踊り場だった。
まず視界に入ったのは、まだ明るいのに時折点滅しながら灯る蛍光灯。
そして、その下で悪態をつきながら右往左往する男。
「クソッ……俺は悪くない!……なんで俺だけ!」
男=武川に気付かれないようにマサルは辺りを探り状況を整理する。
場所はマサルの自宅アパートの隣にある小さなオフィスビルの非常用階段。
自宅で漫画を読んでいたマサルは、女性の悲鳴を聞き、乱暴されそうな女子高生の姿を見た。
自身の現状を認識しながら一歩を踏み出せず、自害する度胸もなかったマサルは、心の底でこの瞬間を待っていたかのように迷いなく部屋を飛び出した。
その姿にアリサは必死で助けを求めるが、武川が大人しくさせるべくアリサへと迫る。
如何せん運動とかけ離れた暮らしをしていたためにマサルが辿り着いた時には武川に面と向かって立ち向かうには無理があった。
そうして気がつくと今だったのだ。
幸い、武川はマサルに見向きもしていない。
だが、マサルはその場から動けなかった。
隣に気を失っている様子のアリサがいた事で逃げ出すという選択肢が頭から消えていた。
マサルは、気を失っている振りをしながら打開策を考える。
しかし、成果もないままにしばらく経つと、越谷がふらっとタバコを手に階段を登って現れる。
「……な、なにも見てないからな!」
だが瞬時に状況を分析した越谷はその場から立ち去ってしまう。
――――それから一時間近くが過ぎた頃。
越谷が再び踊り場に姿を見せる。
筒上に丸めた新聞や古びたノートを固く握り締め
「やっぱりだ……
……お前が、お前がサトシを殺した!」
そう声を荒らげ憔悴した武川に拳を振り上げた。
過去が明かされ苦境に立たされた武川刃。
愛する家族を失い、怒りに身を任せる越谷誠史。
過去は過去。今は自由奔放な西条亜梨紗。
過去を悔い、過去に苦しむ細川優。
誰を理解し、誰を批難するのか
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