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電柱につけられた蛍光灯がまばらに照らす路地をアパートへ向かう。脳裏に昔から住み着いている想像が立ち上がる。それは物語の終わった後のこと、白いフードのついた、雨合羽のような服を着た子供が雪原に一人立っている。
幼い頃の記憶は不思議なもので、時折どこか外側から自分を眺めていたという覚えがある。それが本当に私の記憶なのかは解らず、絵本を読み聞かせる母の膝に座っている私の姿もまたそんなはっきりしない場面の一つだ。妹が母の膝に座っている記憶を、私が座っていたのだとすり替えている、それらしい説明だと思う。
好きな絵本があったというのは、これは間違いなく私の記憶で、脳裏に浮かぶあの白い子供が、森の中を歩いていくのだ。
クリスマスの夜、プレゼントをねだる少年はお祖母さんから小さな箱を渡される。
「プレゼントがほしいなら、ぼうやも誰かにプレゼントをあげなくてはいけないよ」
リボンで括られた箱を、小さな両手で抱えて雪の積もった夜の森へ踏み出す。
まずはリスが現れる。少年がプレゼントをあげようとするとリスは匂いをかいで、
「わたしはクルミがほしいのよ、そんなものいらないわ」
森の中へと消えてしまう。
ふくろう、あらいぐま、おおかみ、くま、様々な動物が入れ替わり立ち替わり現れて、少年の差し出すプレゼントを、これはほしいものではないねと言ってどこかへ消えていく。彼は段々と心細くなってくる。
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