山粧《やまよそお》いて……

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山粧《やまよそお》いて……

秋の光があふれるテラスで、シナモンたっぷりのアップルパイを頬張った。 二人きりのドライブなのに。 あなたときたら、ずっとあっちを向いたまま! あたしも一生懸命おしゃれしてきたんだよ? 広がる山並みは、赤や黄色、オレンジに、それから、ええと、茜色……。 色鮮やかに染まっていて。 やっと戻ってきたと思ったら、カメラを片付けながらも興奮したまま、あなたは言った。 「紅葉した山は、美しく飾った女神の衣に(たと)えられるんだって。 一番いい時に来れて、よかったなぁ」 口いっぱい、さっくりと、落ち葉降る晴れた日みたいな香ばしさ。 降りそそぐ木漏れ日は金色(きんいろ)で。 (どうせ、女神様にはかないませんよー、だ) 金色の、甘いだけじゃないアップルパイに苦いようなシナモンの香り。 ちょっとだけ渋い紅茶は茜色。 あたしは、モヤモヤした気持ちを、秋の色と一緒にのみ込んだ。
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