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「いつもお疲れ様です。お茶を入れたのですが……」
「あぁ、すんません。でももう帰りますので、また次回いただきます」
「そうですか。またいらしてください。……飯豊さんにこんなに長く付き合えている方は木兎さんが初めてです」
「はは……嬉しいんだか喜べないんだか……。じゃ、俺はこれで」
「はい。ありがとうございました」
ぺこりとお辞儀をする家政婦・木葉に対して、木兎も腰を折って頭を下げる。そうして帰っていった木兎を見送り、入れた紅茶を飯豊の部屋へと運ぶことにした。
「失礼します」
「ああ」
ノックをした上で声を掛け、飯豊の部屋のドアを開ける。パソコンに向かっている飯豊のデスクに紅茶を置き、部屋の中をぐるりと見回す。部屋は整頓されているものの、本棚には分厚いハードカバーの本や専門書の他、よくわからない置物もたくさん置かれている。地球儀や天球儀はわかる。中に小さい人形の見える仕掛け時計もまだわかる。だが、ロゼッタストーンのレプリカや埴輪も置いてあると思うとよくわからなくなってくる。更には棚に壺や意味深なアンティークボックス、フラスコとビーカーに試験管、綺麗な色の液体が入った小瓶……は香水だろうか。パッと見は(なんか色々ある)で済ませられても、よく見ると(んん?)と思うようなものが、この部屋には所狭しと並べられているのだ。
「何かね」
部屋をじっくり見渡している木葉に、パソコンから顔も上げずに飯豊が短く問いかける。
「いえ。いつ見てもすごいなぁと」
「私がすごいのは当たり前だろう」
「部屋がです」
「なんだ部屋か。まぁ……亡くなった妻と旅行先で買ったものが大半だな」
「そうですか、奥様と……」
飯豊の妻・ほとりは、娘・ひるかを生んでから2年でこの世を去ってしまった。元々長生きは出来ないであろうと医者に宣告されていた身体だったが、ほとりは頑張って生き、子供まで残した。そんなほとりを飯豊は心から愛し、大切にしていた。世界のいろいろなものを共に見たいと思い、彼女を連れて様々な国へと旅行した。記念の品も、行く先々でたくさん買った。飯豊の部屋にあるものは、ひとつひとつに妻ほとりとの思い出が詰まった大切なものだった。どの品物を見てもほとりの笑顔が浮かぶ。彼女を笑顔にすることが、飯豊の至上の喜びであった。
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