四階での話(ネム)

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 男ふたりの共同生活なんて、言ってしまえば問題だらけだ。幸いにも料理に関しては、タイガが率先して担当してくれている。ただ、料理にスキルポイントを極振りしているせいで、それ以外はからっきしだった。洗濯機を回せばほとんど必ず靴下の片方を紛失させるし――いったいどんな手品を使ってるんだといつも疑問だった――、掃除をすれば、毎回、なにかひとつ破壊している。  共同生活を始めたばかりのころは家事の一切を当番制にしていたが、それで毎回、大げんかだ。レオのスマホを落とし、気づかないまま掃除機で踏みつけ、ディスプレイを割ったときはひどかった。それ以降いい加減に学習して、料理をタイガが、掃除・洗濯をレオが担当するようにしていまに至る。レオも器用なタイプではないが、おかげで掃除と洗濯は一通りこなせるようになってしまった。  問題は、そればかりではない。かかとをコンクリートに打ち付けて、高い靴音を鳴らしながら、四階まで駆け上がる。エレベーターを使わないのは、体力が有り余っているからだ。朝よりも昼、昼よりも夜のほうが機敏に動ける。バイト終わりの、すっかり日の暮れたいまが、いちばん頭も冴えている。  自宅のドアを開け、玄関に入る。電気をつけて、靴を脱ぐために視線を落とし、ぎくりとした。知らない、女物のパンプス。嫌な予感しかない。靴を脱ぎ捨て、荷物を放り投げて、慌ててリビングへと向かう。 「~~~~~~ッ、おいッ!」  的中した。してしまった。昼前にレオがだらけていたあのソファで、タイガが、見知らぬ女に覆い被さっていた。  間一髪。まさしく、いまにも食らいつこうとしていた。女は突然のレオの登場に、ひどく驚いた表情を浮かべている。真っ白でふわふわな服を身に纏い、ひつじのようだ。よく言えば純粋そうで、悪く言えば察しが悪そうだと思った。パッと見ただけで確信した。間違いなく、タイガの好みだ。  タイガは「チッ」と舌打ちをして、なにも言わずに女の上から退いた。女は状況を理解できていない様子で、忙しなくレオとタイガを交互に見比べている。  まだ脱がされる前の段階でよかった。本当に。素っ裸の女と対面したことも、一度や二度の話でないのだ。あれは、きつい。被害者はこちらだというのに、まるでレオが悪者であるかのように悲鳴をあげられるのだ。今回は血を見る事態にならずに済んだ。
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