一階での話(ネム)

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 お姫様になりたかった。具体的なビジョンがあるわけではなかったけれど、昔からずっと、絵本の中のきらきらしたお姫様に憧れていた。お姫様はみんなきらきらして、かわいいものに囲まれて、そしてチヤホヤされている。  そう。わたしはチヤホヤされたかったのだ。すれ違う全員が振り向くような美人に憧れていた。絵本の中のお姫様は、みんな、例外なく美人なのだ。美人でなければ、お姫様になる資格さえ得られない。  自分が、どちらかといえばかわいい部類に入ることは自覚していた。間違っても「きれい」や「かっこいい」にはなれないことも。「かわいい」に不満があるわけではない。わたしの武器が「かわいい」ならば、それを追求しようと思うくらいには気に入っている。けれど、所詮は中の上であるのも知っていた。わたしの上には上がいる。  朝粥がダイエットに向いていると知ってから、朝食はパンから粥にした。サラダよりも温野菜がいいと聞けば、コンビニのサラダも、レンジで温めてから食べている。肉は食べない。野蛮だから。好物はフルーツだ。本当はスナック菓子が好きなのだけれど、かわいくないから、これは却下。けれど我慢しすぎは身体に悪いと言い訳を して、ときどきインターネット通販で買って、ひとりでこっそり食べている。スーパーでは買わない。外に出るときは、カンペキなわたしでなければならないからだ。  話題のマカロンはもちろん好きだ。フランボワーズとか、ピスタチオとか、パステルカラーの、見た目がかわいいもの限定で。  マカロンがおいしいことは知っているけれど、実はあまり甘いものは得意でなかった。「ケーキ食べたぁ~い、デザートビュッフェ行こぉ~!」とかなんとか、猫なで声で言うけれど、その日の晩はひどい胸焼けに悩まされるのだ。  そこまでしてどうしてケーキなんて食べに行くのかといえば、わたしには、「かわいいわたし」が必要だからに他ならなかった。かわいくなければ価値がない。「かわいい」以外はカラッポなのだ。だから、本当は彼氏なんていないのに、常に男の影をにおわせるような振る舞いをしている。こんなに努力をしているのに、誰からも相手にされないなんて思われたくないからだ。実際、恋人はいないと素直に口にしていたときよりも、いまのほうがよくモテた。きっと、狩猟本能というやつなのだろう。
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