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うつむいてお弁当を食べていたら、頭上から声が振ってきた。反射的に顔を上げれば、そこには同年代ほどの青年が立っていた。スーツ姿だけれど、ジャケットは羽織っていない。明るめの茶色の毛は自前だろうか。微笑むと目尻にしわができる。
「こんにちは」
「隣、空いてますか? 座っても?」
「ええ、どうぞ」
昼時の公園のベンチは大人気だ。わたしのように職場を抜け出してお弁当に舌鼓を打つ者もいれば、午前中から遊び倒して休憩に入る親子連れなんかも多い。あと二、三十分もすればぐっとひとは減るけれど、それではわたしたちの昼休憩も終わってしまう。
隣に腰掛けた青年は、下げていたコンビニの手提げ袋の中から、まずお茶のペットボトルを取り出した。それから、塩むすびのおにぎりをふたつと、グリーンサラダ。どうやらそれでおしまいらしい。
わたしが言うのもなんだけど、随分とヘルシーな昼食だ。食事に、一切肉が入っていない。わたしの好奇心旺盛な視線に気がついたらしく、不意に青年がこちらを向いた。ばっちり目が合ってしまった。
「一緒ですね」
わたしのお弁当箱の中身を覗いて、彼が柔らかく目を細めた。野菜と穀物しかないお弁当の中身は、確かに、一緒。それがきっかけとなって、彼とはこうして毎日並んで昼食を食べる仲になった。
きのこの炊き込みご飯でおにぎりを作ってみたり、旬の野菜を取り入れたグラタンやキッシュを作ってみたり、色とりどりに毎日変わるわたしのお弁当の中身と違って、彼の昼食はいつも代わり映えがしなかった。コンビニのおにぎりふたつと、グリーンサラダ。ペットボトルのお茶でさえ、毎日同じものを買っている。ただし、サラダは時々、野菜スティックに取り替えられることもあった。そういう日は大抵、「今日は誰かが先に買っちゃったみたい」と困ったように笑うのだ。
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